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NBAゴールデンステイト・ウォリアーズがバスケットボールを変えた

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ゴールデンステイトウォリアーズによるバスケットボール革命

   

2017NBAプレイオフも大詰め。”怪我”など、内容は少し残念ですが、西のファイナル、サンアントニオ・スパーズ対ゴールデンステイト・ウォリアーズのプレイオフでの激突は2013年以来。


2013年の同カードで象徴的なプレイがあった、ということで、1年以上前になりますが、当ページではお馴染みのウォールストリートジャーナルのベン・コーヘンさんの記事を要約しました。

ゴールデンステイト・ウォリアーズの革命

タイトルは、
The Golden State Warriors Have Revolutionized Basketball
Team executives saw the 3-point line as a market inefficiency and unleashed Stephen Curry to exploit it

元記事

要約ここから
↓ ↓ ↓

◆全てのNBAコートにおいて、バスケットから24フィートのところに設けられているライン。このラインを境に、得点が2点と3点に分けられる。

◆1979年にそのラインがNBAに導入されたシーズン、スリーポイントの割合はわずか3%に過ぎなかった。

◆この30年以上で、その数字は跳ね上がり続けた。22%に届いたとき、成長カーブは止まった。バスケットボールというスポーツが最適な比率を見つけたかのように。

◆が、「新生」ゴールデンステイト・ウォーリアーズが現れ、その(最適?という)仮定を吹き飛ばしました。

NBA全体におけるスリーポイントシュートの割合↓


   

◆2015-2016シーズン、ウォーリアーズはレギュラーシーズン73勝。その多くはカリーによるものでしたが。。。

◆カリーの活躍とは別の話。2010年にフランチャイズを買収した、(バスケットボール関連では)限られた経験しか持たないシリコンバレーの資本家たちによるエグゼクティブたち:「もしこれまでのやり方を無視してバスケットボールチームを築くならば、何が起こるのか?」

◆紆余曲折、失敗があった。しかし2015-2016シーズンでウォーリアーズが示した支配的な強さは、データを愛しているエグゼクティブによりあたためられた、”普通でない”アイデアのうちの1つにさかのぼることができます。:平凡な見方しかしていなかったから、NBAのスリーポイントが非効率と考えられていたのではないか、という気づき。

◆ウォーリアーズは2015-2016シーズン、1077本というNBA史上最も多くのスリーポイントを決めた(試投は2592)。カリーは他の選手より多く放っただけでなく(試投886本)、45.4%という高確率で決めた。さらに、平均的なNBA選手が3、4フィートから打つよりシュートよりも、カリーが30-40フィートから打つシュートの方が確率が高かった。

   



*BASKETBALL REFERENCEより

   

◆この結果は、いまだかつてないバスケットボールスタイルだった。

◆シリコンバレーの資本家であるウォリアーズの筆頭オーナー、ジョー・レイコブの話。「とにかく興味深いのは、どの世界にも誤りがあるということ。本当に・・・誰もスリーポイントにまつわる戦略、チーム構築を実行してこなかった。」

◆2010年。ゴールデンステイト・ウォーリアーズは、1975年以来優勝から遠ざかっていた。前のオーナー、クリス・コーハンは多くの忠実なファンからひどく嫌われていました。

◆それでも、チームを買う競争は熾烈でした。他の買収最終候補者、オラクルの創立者ラリー・エリソンをかわすため、レイコブと映画プロデューサーのピーター・グーバーは、NBA史上最高値のを4億5000万ドルを支払いました。

◆60歳のレイコブは、すぐに自分の会社の一つにバスケットボール専門委員会を設置。チームのエグゼクティブは携帯を通じて常にコミュニケーションを取り、すべての決定において活発な議論を行いました。しかし最初から、、、”数字”に異常に執着してきました。

◆データダイビングにより多くの洞察がなされましたが、結局3ポイントラインに照準を合わせました。NBAプレーヤーは、24フィートから打つシュートも23フィートから打つシュートも、その確率はあまり変わらない。ラインはその中間にあり、2つのシュートの価値は全く異なる。23フィートからシュートの平均的な価値は0.76、24フィートだと1.09。

◆これこそチャンス、とウォーリアーズ首脳は結論づけました。シュートする前にほんの数インチ後ろに下がることによって、バスケットボール選手は”利益率”を43%改善できたのです。

◆レイコブは、すでに野球が行っていた、統計を掘り下げるという唯一のチームオーナーではなかったですし、ウォーリアーズは3ポイントの可能性を見出した最初のNBAチームではありませんでした。1990年代初め、フェニックス・サンズやサンアントニオ・スパーズのような、多くの良いディフェンスを持つチームが得点するために様々な方法を模索。これは、より多くのスリーポイントを打つことを意味していました。近年データが改善され、チームが十分集約していなかった数字がクリアになったのです。

The difference between the Warriors and everyone else was what the team decided to do with this information.
ウォーリアーズと他球団の違いは、チームが「この情報(スリーポイントは価値がある)」で事を成す、と決定したことでした。

◆1891年にジェームズ・ネイスミスがバスケットボールを発明した後ずっと、最も重要なエリアはバスケット(ゴール)付近であるとされてきました。1960年代のウィルト・チェンバレンのフィンガーロール、1970年代のカリーム・アブドゥル-ジャバーのスカイフック、そして1990年代のジョーダンのダンクと、NBAはリムを支配する選手のものでした。

◆前オーナーにより、2009年ドラフトでカーリーが指名された時、彼はプロトタイプのNBAスーパースターではありませんでした。彼の父デルは元NBA選手でしたが、高校を卒業する時大したリクルートは受けず、故郷シャーロットに近い中堅校、デビッドソンカレッジに進みました。2008年のNCAAトーナメントでデビッドソンが地区決勝まで進んだ(エリートエイト)後、NBA候補として頭角を現したにすぎませんでした。

   

スラムマガジンより

   

◆ウォーリアーズにおける最初の2シーズンにおいてさえ、カリーは大した評価を得ていませんでした。それでも、チームの新しいエグゼクティブが3ポイントラインを利用するプランを採用すると、彼らはカリーをチームの中心に据えることを決定しました。

◆このプラン決定の最初のテストは・・・:チームのリーディングスコアラー、モンタ・エリスを放出することでした。ある人間は、エリスはカリーに似すぎているととらえ、またある人間は最も人気のあるエリスを放出することはクレイジーであると考えました。レイコブはこのトレードの前、彼のバスケットボールエグゼクティブにその”自信”をテスト。彼らは「プラン」を強固に主張、、、引き金がひかれました。

◆この2012年のトレードの後、レイコブはファンに非難されました。このシーズンを、チームはNBA最悪の記録の一つで終えました(23勝43敗)。

   

   

   

Team building

◆ウォーリアーズはすでに、カリーにより多くのスリーポイントシュートを打つことを許しており、彼を中心にチームを構築していました。彼らが最も酷評されたのは2011年ドラフトにおいて、ワシントンステイト大学のガード、クレイ・トンプソンを指名(11位)した時でした(13,14位でモリス兄弟、15位でカワイ・レナード、30位でジミー・バトラー)。クレイも元NBA選手の息子であり、素晴らしいシューターでした。6フィート7で、カリーよりも4インチ高い。

◆チームは、トンプソンのシューティングがディフェンスを恐れさせ、カリーへのダブルチームが弱まると考えました。しかしトンプソンは背が高かったので、相手のベストガードをディフェンス可能、しかもブロックされることなくシュート可能。このことは、ウォーリアーズの競争力を高めました。

◆このウォリアーズの動きを最も魅力的にさせたのは、その目新しさでした。ほとんどの3ポイントシューティングチームというものは、シューターは一人だけ、残りはサポーティングキャストとして集めていたのです。

“Imagine if we could have two of those guys,”
”2人のスーパーシューター”。
オーナーの27歳の息子で、チームのアシスタントGMであるカーク・レイコブが振り返って話します。

“It’s once in a lifetime,” said Joe Lacob.
”生涯に一度だけだ”とジョー・レイコブ。

◆エリスがトレードされ、トンプソンがスターター入り。その後、GMのボブ・マイヤーズによると、戦略は「カリーだけでなく、トンプソンとともに誰がプレイできるか」という点に移ったそうです。

◆2014-15シーズンまでに、ウォリアーズはリムプロテクターであるアンドリュー・ボガット、”ポジション無視”のドレイモンド・グリーン(これは2012年NBAドラフトにおける収穫)に、FAのガード、アンドレ・イグダラおよびショーンリビングストンを獲得。「彼らはシューティングにおいて助けとなる」とマイヤーズ。「シューターではないけれども」。

◆ウォーリアーズはこの時、リーグの貴重なプレーヤーの一人、ミネソタ・ティンバーウルブズのケビン・ラブをトレードで獲得するチャンスがありました。ラブの獲得は、ほとんどのバスケットボール界の人間にとって迷うまでもないことでした。しかしウルブズが、ウォリアーズのマスタープランを放棄せざるを得ない選手を見返りに要求。「彼らはクレイをを要求し続け、我々はノーと言い続けた。」とレイコブ。「我々はクレイをトレードしようとしておらず、ウルブズはクレイ無しでは取引をしようとしていなかった。」

◆チームはマーク・ジャクソンに代えて、リーグ史上最高のスリーポイント成功率(45.4%)を記録し、5回の優勝経験を持つスティーブ・カーをヘッドコーチに。これはカーにとって、最初のNBAコーチ職でした。

◆全てが揃ったこのシーズン(2014-2015)、ウォリアーズは6-3から6-8の5人で、彼ら全員がスリーポイントを打てました。この”スモールボール”ラインアップは、”デス-ラインアップ”またはバラク・オバマが呼んだ”核-ラインアップ”として広く知られ、前シーズンよりもスリーポイントを9%多く放ち、どのチームより高い確率を得る要因となりました。

◆この”頻度と効率”の組み合わせは、相手チームに対して明らかな効果がありました。ペイントに集まる代わりにスリーポイントを守るためにディフェンスを広げ、ウォリアーズは多くのオープンスペースを得ました。カリーはスリーポイント記録を作り、リーグMVPに。トンプソンはオールスターに選ばれました。ウォリアーズは、40年来手にしていなかったNBAタイトルを勝ち取るために、クリーブランド・キャブスを打ち負かしました。

   

   

A step further

◆ウォリアーズは明らかに勝利の方程式を見つけました。しかし彼らはそれから、さらに一層良くする大胆なアイデアについて考え始めました。

◆「プラン」は、NBAトップチームの一つであるスパーズとの2013年プレーオフゲームの間に形を取り始めました カリーがちょうど眩さを放ち始めたころです。1Q初めのポゼッションで、カリーはスクリーンを利用してドリブル、自らオープンスペースを見つけました。カリーは即、プルアップスリー。

   

◆この夜アリーナで観戦していたGMのマイヤーズは目を疑いました。ボールがネットをきれいにくぐると(Swish!)、自分が見たものを確かめるように、周りにいたほかのフロントスタッフの方を向きました。「今、片足で打ったよな?」「誰がスリーポイントを片足で打つ??」

◆このシュートは、カリーがNBAキャリアの初めの方で沈めた多くのうちの一つ。しかしそれは、チームの別のアイデアを固める上で重要な役割を果たしました。ウォリアーズフロントは・・・もしより多くのショット、およびよりクレイジーなショット、もっと多くの片足ショットを打つことに、カリーに青信号を与えたならば・・・何が起こるのか、を夢想していました。

◆誰も気づいていませんでしたが、カリーはすでに、1ゲームで10本のスリーポイントを決めるところまで到達していました。片足シュートがスリーポイントラインから5フィート離れた、もしくはコンコースのポップコーン売り場からであっても大したことではありませんでした。彼の精度はそれほど確かなもののようでした。実際に、全てのゲーム前、カリーはハーフコートロゴからのシューティングを行っています。

◆チームは、カリーのスリーポイントシュートで終わる全てのポゼッションが価値あるものと認識しました。カリーが解き放たれたこのシーズン、ウォリアーズは前のシーズンよりも17%多いスリーポイントを打ちました。カリーは1ゲームで11本以上のスリー試投。9本以上を試投する選手のいるNBAチームはありませんでした。2014-2015シーズン、カリーは286本のスリーを沈め、2015-2016シーズンは402本決めました。

◆ファンをより驚かせたのは、それらのショットの位置。NBAプレーヤーは、27フィートもしくはそれ以上からのシュートは平均わずか28%。ショットクロックぎりぎりにならない限り、ほとんどのプレーヤーはそんな距離からのショットを打ちません。カリーはそのようなショットを253本放ち、成功率は47%でした。結果、ディフェンスは彼をガードするためにバスケットからより離れ、広がり、彼のチームメイトのためにいっそう広いスペースを作ることになりました。

“Stretching a defense makes it easier to score,” Mr. Myers said.
マイヤーズGM「ディフェンスを広げてしまうことで、簡単に得点できる」

◆2015-2016シーズンのウォリアーズの成功は、NBA最高のスター選手である28歳のカリーに依るものでした。カリーはサイズがそれほどあるわけではないので、大衆にアピールできます。

◆カリーの知名度により、スリーポイントシュートの「地位」も向上しました。2015-2016シーズンも、過去4シーズン同様、スリーポイントの試投は増加しました。NBAにおける全試投の28.3%です。NCAAチーム、高校チームも同じように3点シュートの数が増えています。

◆ウォリアーズの共同オーナー・グーバーは、他球団もウォリアーズを倒すために色々な方法で試みてくるだろうと言います。

◆「他のチームは違う方法でくるだろう。」「チャンスを掴み、ウォリアーズに挑み、別の方法で魔法を起こすだろう。」と。

◆現在はウォリアーズの時代です。ウォリアーズはスリーポイントラインに注目しました。ラインの内側で展開する戦略は過去のゲーム。未来のバスケットボールはラインの外側にあり、カリーは彼らが想像した以上の距離からそれを証明しました。

レイコブオーナー:
「なぜこれほど長い間(インサイド重視が)続いたのかわかりません。」
「もっと前に(スリーポイント戦略が)試されてもおかしくなかった。」

↑ ↑ ↑
要約ここまで

   

   

バスケットボール、スリーポイントシュートのこれまでとこれから

 
まず面白いのは、この「革命」がバスケットボール選手やコーチ、GMなど、長らく現場で過ごしてきたのではない人たちによって起こされたものであること。ゴールデンステイト・ウォリアーズの躍進は、シリコンバレーの”データラバー”資本家たちの発想によるものでした。


僕は、なぜ身体的ハンディを持つ日本やアジア、アメリカ以外の国がこの「スリーポイント革命」を起こせなかったのか、疑問に思ってきました。が、アメリカにおいてさえ、”現場”の人間はスリーポイントの価値に気づけなかったのですね。
*”マネーボール”でもそうだった。

   

映画「マネーボール」

   

   

このことでやはり、アメリカが日本と比にならないバスケットボール先進国、スポーツ先進国であることを思い知ります。

ビジネスなどで成功した人間が、日常的にスポーツ観戦を行っている国。それも相当熱狂的に。

多くの人間がプロスポーツチームのオーナーになりたがる国。

「マネーボール」でも描かれているとおり、”現場の”、”古い”人間の抵抗はバスケットボール界でも少なからずあるようですが、”データラバー””スタッツオタク”がスポーツ界で革命を起こす風土。


これもアメリカという国がバスケットボール、スポーツで最先端を走る一因なのだろうと思います。

そしてそのウォリアーズをやぶって2016年チャンピオンに輝いたクリーブランド・キャバリアーズ。レブロン・ジェイムズという並外れた選手の存在。

冒頭のとおり、カワイ・レナードの怪我などが残念ですが、ティム・ダンカンが抜けながらもウォリアーズと互角の戦いを見せるサンアントニオ・スパーズ。グレッグ・ポポビッチという超名将の存在。

ウォリアーズ同様、というよりそれ以上にスリーポイントで旋風を巻き起こしたヒューストン・ロケッツ。


*今季2016-2017シーズン、最もスリーポイントの確率が高かったのはスパーズ。次いでキャブス、ウォリアーズ。最も試投が多かったのがロケッツ↓


   

あらためて、アメリカがバスケットボールの国であることを認識させられました。

同じようにスタッツを追いかけることが出来るようになっている、Bリーグはじめとした日本バスケットボール。数字を活かした球団はまだまだ限られているようですが、早々に「革命」を起こすチームが出てくるのではないでしょうか。

   

*関連して、下記3つの記事も是非参照ください。

ステフィンカリー-シューティングの科学(シュートの秘訣)


ピート・キャリルのプリンストンオフェンス

※キャリルはスリーポイントの価値に最も早く気付いた人間の1人。プリンストン大学を退いた後、NBAサクラメント・キングスなどでアシスタントコーチを務めたキャリルはなぜ「革命」を起こせなかったのか。歳を取り過ぎていたからか、アシスタントコーチという立場のせいか、NBAとNCAAでは勝手が違ったのか、カリーのような選手を見出せなかったのか、はたまた”現場”の抵抗にあったのか・・・ちょっと興味のあるところです。


バスケットボールのシュートはゴール下とスリーポイントだけでよい?

   

*マーク・ジャクソン辞任後のコーチ選定記事。カーでなくても成功できていたかどうか。

   

<追記>


STRENGTH IN NUMBERS


とは、実に現代バスケットボール的なフレーズだと思います。(様々な意味がありますが)
バスケットボールにおいて、「数字」の分析はもはや欠かせないものになりました。
ルールが変わらない限り、スリーポイントに重きを置く流れはさらに世界的に広がるでしょう。
”その次”がどうなるか。それも楽しみです。

   

・「大成功球団」ゴールデンステイトに関しては既に多くの本、記事がありますが、これからも出てくるでしょう。
参考記事をさらに。


ESPN
THE ATHLETIC
The New York Times

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