デューク大学バスケットボール。
世界で最も有名かつ人気のあるNCAAディビジョン1プログラムであるこのチームは、これも世界で最も有名なバスケットボールコーチの1人であるマイクシャセフスキーが、41年間コーチをしてきた、言わずと知れた名門です。
同校にとっては珍しくない、ファイナルフォーに進んだ2025年。
今回は、この2025ファイナルフォー進出の裏にあった日本の企業哲学、KAIZEN(カイゼン)について。
このKAIZEN(カイゼン)、ご存じのとおり、日本のトヨタが世界に広めた企業哲学ですが、実はバスケットボール界にも広く浸透しています。※日本では、2023年にBリーグ・シーホース三河のヘッドコーチに就任した、ライアンリッチマン(彼も若い!)が”逆輸入”したことで知られています。> 参照
デューク大学バスケットボールが、いかにこのKAIZEN(カイゼン)を取り入れたのか。
NCAAトーナメントの実況中にも出てきた言葉、バスケットボールにおける、このKAIZEN(カイゼン)に興味を持ちました。
デューク大学バスケットボールがKAIZEN(カイゼン)を導入した背景

2022年、コーチK(シャセフスキー)からデューク大学ヘッドコーチ職を引き継いだのがジョンシャイヤー。就任当時、何と35歳という、若いヘッドコーチの誕生でした。
自身もコーチKの下、プレイヤーとして、そしてアシスタントコーチとして仕えたシャイヤーは、1年目に当然のようにNCAAトーナメント出場を果たすと(ベスト32)、2年目の2023-2024シーズン、ACC(アトランティックコーストカンファレンス)を2位で終え、連続のトーナメント出場(Southリージョナル4位シード)。スウィート16(リージョナルセミファイナル)で1位シード・ヒューストンを撃破。
ファイナルフォーをかけたエリート8(リージョナルファイナル、全米準々決勝)での相手は、同じACC所属のノースカロライナステイト。それまでに二度戦い、1勝1敗だったとはいえ、NCステイトはACC10位。ACCトーナメント優勝により、何とかNCAAトーナメントシード11位で滑り込みの出場。2回戦ではロウメジャー校のオークランド大学相手にOTまでもつれる苦戦をするなど、ようやく8強に上がってきた状態。
デュークの18回目、そしてジョンシャイヤーのHC就任早々、2季目でのファイナルフォー進出は間違いなし、というのが大方の見方でした。
が、まさかの完敗(64-76)。
この敗戦が、KAIZEN(カイゼン)導入のきっかけです。
デューク大学バスケットボールにおけるKAIZEN(カイゼン)
※KAIZENそのものがややボヤっとしたものですし、深くうかがい知ることは叶いませんが、こちらの記事より抜粋してその大まかな内容を。
Why a Japanese philosophy has been so important to Duke’s success this seasonカイゼン!: デュークの今季の成功に日本の哲学カイゼンが重要であった理由
・選手たちが輪になって集まり、中央で手を合わせる--あらゆるレベルのバスケットボールでおなじみの光景だ。コーチからの最後の指示や励ましの言葉を胸に、選手たちはカウントした。「ワン、ツー、スリー・・・」しかし、「Go team」、「Duke」、あるいは 「Brotherhood(ブラザーフッド、デュークの有名なスローガン) 」の代わりに、別のコールが鳴り響いた:
・「改善 」は、英語に訳すと 「improvement」、つまり 「良い方向への変化 」を意味する。
・ヘッドコーチのジョンシャイヤーは、以前からこのマントラを信奉している。
・この12ヶ月間、シャイヤーはデュークのロスターを解体・再構築しながら、カイゼンを取り入れてきた。
・昨年の夏、彼は新しく編成されたチームにカイゼンの哲学を導入し、多くの選手たちはコーチが話していることを正確に学ばなければならなかった。
「毎日1%ずつ良くしていくことだ」とデュークの6-9オールアメリカン1年生フォワード、クーパーフラッグ。「毎日1%ずつ良くなっていくんだ。つまり、毎日毎日良くなろうとすることなんだ。」
‘Something we say every day’
・デュークはホーム、キャメロンインドアスタジアムでのシーズン無敗を達成。ACCのレギュラーシーズンとトーナメントで優勝。
・ファイナル4まであと3勝、全米優勝まであと5勝。(この記事はNCAAトーナメントの1stラウンドに書かれた)
・しかし彼らは、目的地ではなく旅路に集中することで、毎日少しずつ、この地点に到達してきたのだ。
まさに 「カイゼン 」だ。
・シャイヤー:「選手たちのためにベストを尽くしたいと思い、勉強や読書から始めたよ。」「この日本の哲学は基本的に、毎日をより良くすること。結果にとらわれるのではなく、プロセスや、より良くなるために毎日何をしているかということを説いている。」
「正しい方法で一日一日を積み重ねていけば、優勝のチャンスが巡ってきた時、私たちはその準備ができているはずだと。サンアントニオ(ファイナルフォー)やACCレギュラーシーズン優勝、ACCトーナメント優勝にこだわらない。」
「それを心に刻んできた」。
「プレシーズンを通して、ずっと言ってきた。」「練習の初日、カイゼンだ!って。我々はそれを守ってきたし、毎日言ってきた。」
‘We’re in March now’
・ビジネスの世界ではカイゼンが流行っている。継続的改善のカイゼンサイクルには以下のステップがある: 問題の特定 > 現在のプロセスの分析 > 解決策の作成 > 解決策のテスト > 結果の測定と分析 > 解決策の標準化。
・NBAのチームもその原則を活用している。ボストンセルティックスのブラッドスティーブンス元コーチ(現在は同ゼネラルマネージャー)や、デュークの元選手でアトランタホークスのクインスナイダー現コーチは、カイゼンの実践者である。
・シャイヤーからカイゼンについて聞き、さらに詳しく学んだデュークの大学院生ガード、シオンジェイムズは、カイゼンを取り入れたことが功を奏したと語った。昨秋の(ノンカンファレンス)対戦相手がオーバーンやケンタッキーであろうと、ACCタイトル戦のルイビルであろうと、NCAAトーナメント1回戦のマウントセントメリーズであろうと、デュークは自分たちの基準でプレーした。
「日々良くなっていくというのが基準なんだ。」と、セカンドラウンドでのベイラー戦を前にジェイムズ。
「今は3月だから、ゲームも練習も残り少ない。外野の人たちは、今はパフォーマンスだけだと思うかもしれない。でも実際には、スタンダードに従ってプレイし、毎日何かしらを少しずつ向上させていくことなんだ。」
「今日は良いプレイができたけれど、完璧ではなかった。つまり、まだ成長の余地があるということだ。シーズンを通して多くの成功もあったし失敗もあった。大切にしていることは、毎日少しずつでも成長していくことなんだ。」
‘We’re never really satisfied’
・Duke's way. 達成するために、従来とは異なる様々な手法を用いる。瞑想も重要なことで、選手たちはそのためのアプリをスマホに入れている。
・昨夏パデューからデュークに転校してきた大学院生のフォワード、メイソンギリスは、継続的改善のアイデアについては聞いたことがあったが、カイゼンについてはシェイヤーが持ち出すまで知らなかった。彼は今シーズン、その効果を実感している。
「3年あれば、多くの人を追い越すことができる。毎日その日その日に集中して、自分がその日にできることに取り組んで、次の日へと進んでいけばね。追いつかなきゃ、もっと上手くならなきゃと焦るんじゃなくて、ただシンプルに毎日に集中することが大切なんだ。今日はどうやって成長できるだろう?ってね。」
・デュークはその哲学を十分に実践した。昨年のNCAAトーナメントでNCステイトに76-64で敗れ、ファイナル4を逃した時、シャイヤーは 「人生で最悪の気分だった 」と言った。それ以来、彼は日々向上するために努力してきた。
フラッグ:「僕たちのチームには、そういうタイプの選手が集まっている。本当に競争心の強いグループで、常に成長を目指して努力し続けていて、決して現状に満足することがないチームなんだ。」
デューク大学バスケットボールのKAIZEN(カイゼン)は続く
果たして。
2025年、デュークは見事にファイナルフォーに進出。
しかし・・・
セミファイナルのヒューストン戦。残り2分強で9点リードしながら・・・
まさかの大逆転負け。
ポロポロとターンオーバーを繰り返すその姿は、1年前にNCステイトに敗れた時同様、「X's O'sの問題じゃない」ものでした。
そして今オフ、デュークは強力なアシスタントコーチを雇用。
その人、イーバンブラッズは、NBAセルティックスとジャズ両チームで、スティーブンスとスナイダーの下”カイゼン”を学んだコーチです。
デュークとジョンシャイヤー。
2026年の優勝は成るでしょうか?
(デューク、そしてトヨタ系の三河ももちろんですが、”元祖”アルバルク東京がカイゼンを導入し、今プレイオフの屈辱的なスウィープ負けを糧に来年優勝でもしたら、絵にかいたようなリベンジストーリーですけどね。)
最後に。
デュークのゲームクロージングの問題は、大量リードをしていたエリートエイトのアラバマ戦でもわずかに見られていました。そこでコメンテイターが発したのが”カイゼン”。
そしてそれとは別に。
今トーナメントで一番印象に残ったことを書いておきます。
アラバマ戦の残り1分50秒あたり。
デュークのスーパースター、クーパーフラッグが、バックコートのコーナーでダブルチームされた際に、思わずジャンプパス。これをスティールされてアラバマの得点にされたシーン。
ジョンジャイヤーが大声で怒鳴るんですね(シャイヤーは見た目が穏やかですが)。
「クープ、ジャンプパスするな!」と。
投稿者はそれよりも、NBAドラフト1位指名確実のスーパースターが”イエッサー”と返したことに、「子供たちがこれを見ていますように」と書いているんですが。。。
とにかく、驚きました。
コーチならもちろん自チームのターンオーバーを嫌うでしょうけど、エリートコーチは”憎む”レベルなのだ、と。
ジャンプパスはモーションが大きくなるからスティールを狙われやすい。
故ボブナイトを筆頭に、エリートコーチは(特に練習で)ジャンプパスを完全に禁じているとも言います。
ファイナルフォーがかかったこのハイレベルなバスケットボールゲームの中で、ジャンプパスを咎めたコーチと、”イエッサー”と応じたスーパースター。※イエッサーと言ってる場面は確認できないのですが。
アメリカのバスケットボールは深い。
もし自分の息子がスター高校生選手で、進学先にどのディビジョン1プログラムでも選べる立場にあるのなら・・・親としてデューク行きをすすめたい。
宿敵ノースカロライナファンですが、そう思わざるを得ない場面でした。
最後の最後に。
ちょっとこの"KAIZEN"は、言葉が独り歩きしている感が否めないのですが(特に海外で)、それはともかく、こちらのドキュメンタリーは面白いです。おすすめです↓
本投稿とは関係ないですが、、、
> 参考1
> 参考2